anyadraの日常

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人生大逆転

これからはただの人として生きていくのだ、そう半ば覚悟を決めて凡庸な学生生活を送っていたある日のこと。

 

突然将棋部に取材したいという相談が来たらしく、OBの1人でしかないはずの私が何故か後輩に呼び出された。後輩の頼みをまさか断るわけにもいかないし、珍しいこともあるものだなあと思いつつ担当の方のお話を伺うことに。

 

どうやら藤井聡太当時七冠が八冠独占に王手をかけ、次の対局がたまたま大学の至近距離で行われるために取材が来たようだ。この時点で、取材の依頼が来たことはかなりの奇跡であると察した。

 

確かに私はタイトル戦の棋譜を見るくらいのことはしていたし、藤井聡太八冠誕生自体は近い将来に高確率で起こる事象だとは思っていた。しかしそれを客観的に見られる外の世界の出来事だとしか思っていなかったくらいには将棋から離れて生きている感覚があったし、それは今後も変わらないつもりだった。

 

今よりもバリバリの現役プレイヤーだった時ですら取材されることは皆無だった私が今後将棋関連の取材を受けることなどあるはずがない、そう思っていた。万が一取材されたら意外に面白い話ができるのではないかとは思っていたが。

 

話は順調に進んで事前打ち合わせを終え、どんな感じで映るのかもよく分からないまま運命の当日を迎えた。朝早くから部室に多くの人が集まり、タイトル戦の一局を最初から最後まで見守るという光景が見られたのはもしかするとこの日が最初で最後かもしれない。

 

どのような取材が行われ、どのような話をしたのかは既に世界中に公開されてしまっているのでここで改めて言及するつもりはない。ただこの日を振り返ると、無意識のうちに緊張していたところもあったと思うが、自分らしく思っていることをそのまま伝えることはできたのではないかと思っている。

 

そして無事に取材を終え、去り際にもし今日八冠が誕生したら明日も取材に来るかもと言われた。半月前には想像もし得なかった光景である。

 

取材終了後も対局を固唾をのんで見守っていた。終始どちらが勝つか分からない展開が続いているように感じていたが、いよいよ決着は最終局に持ち越しかと思われたその矢先に急転直下八冠誕生目前の展開となった。そして大逆転で追加取材が決まってしまった。

 

この日はこれまでにない経験ができた充実感を感じると同時に将棋の難しさ、勝負の厳しさを実感することとなった。この経験の大きさについては今はほとんど実感がないが、今後いろいろと感じる場面が出てくるのかもしれない。

 

無事に次の日の取材も終えて自分としては再び平穏な日常が戻ってきたなと思っていたが、その反響は予想以上に大きかったようだ。完全なる人生大逆転である。

 

しかし今後の自分の人生に対する考え方は大きくは変わっていないし、人生大逆転というのはちょっと大げさな書き方をしてしまったような気もする。

 

むしろ最近は自分自身では結果を全くと言って良いくらい出せていない上に八冠が誕生して取材で思っていることを全て伝えられたので、もう将棋界でやり残したことはないし今以上に将棋から離れてただの人になっても良いなと少し思った。

 

それでも将棋自体はゲームの1つとして面白いし、まだ意外に勝てることもあるのでこれまでとあまり変わらずに今後もやっていきたいと思っている。今回のように人生に意外な展開をもたらすツールになってくれるかもしれないし。

 

大逆転ばかり狙うのではなく、普段は堅実にいくのが自分らしい人生スタイルなので今後もブレずにやっていくと決意してこの一連の出来事については筆を置こう。